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認 知 症 の 介 護 の 仕 方(2010年)

 
タクテイール・マッサージの効用:

スウェーデンで開発され、グループホームや高齢者施設、病院、知的障害施設、厚生施設などで活用されている、タクティール・マッサージを紹介してきました。このサイトでは「認知症介護の仕方」で、タクティールセラピーとして、マッサージの仕方を紹介しています。
 
  ここ数年日本でも多くの地域で紹介され、中にはスウェーデンを訪問して実際に勉強し、日本で活躍している人たちもいます。そうした多くの人たちの中で、実際にタクティールを取り入れ、マッサージの効用について、研究したグループがあり、このサイトでその結果を紹介したいと思います。

研究資料の公開を承認してくださった、
能代山本医師会病院の畠山千春様、高松真紀子様、近藤香奈子様、野呂康子様に、ここでお礼を申し上げたいと思います。

今回のタクティール・マッサージの研究については、能代山本医師会病院のサイト「看護の日」に紹介されており、興味のある方は訪問してください。
 タクティール・マッサージを受ける人たち  

     写真提供: 能代山本医師会病院

 

下記資料の複製、転写をご希望の方は、能代山本医師会病院「看護の日」に御問合せください。

 

能代山本医師会病院、看護研究資料、(平成20年)

 

認知症患者の周辺症状緩和への取り組み

―タクティールマッサージを用いて―


研究班: 
畠山千春・高松真紀子・近藤香奈子・野呂康子
 

Key word:BPSD、タクティール
 

T、はじめに

 近年、医療技術の進歩、経済の発展が平均寿命の延長をもたらし、「認知症の患者数は高齢化率と比例することから、認知症老人は2015年には全国で262万人、2020年には292万人に増加すると推計されている」1)また、「全国で高齢化率が最も高い秋田県では、現時点での患者数が2.4万人、予備軍が6.3万人と推計される」1)といわれている。認知症の基本概念は「認知機能障害のために、日常生活や社会生活等が障害されていること」と定義されており、認知機能障害に伴って表れる症状を周辺症状という(周辺症状以下BPSDとす)。
 

 当院でもBPSDが現れる患者が増えており、入院や必要な処置が理解できず、円滑に治療を行うことが難しくなってきている。そのため、やむを得ず安全ベルトや鎮静剤を使用することがある。しかし、身体拘束を行うことにより、むしろ転倒、骨折のリスクが高くなり、薬物の使用は加齢に伴う変化のため体内にとどまる時間が長くなり、副作用のリスクを高めるとされている。
 

このような現状を少しでも減らす有効的な手段の1つとして、タクティールマッサージを知る機会があった。タクティールマッサージは「手によるふれあいで相手に精神的な安心感や信頼感を与え、本人の孤独感やストレスといった苦痛を緩和する効果がある」2)といわれており、BPSDを緩和する目的もある。

そこで、BPSDの症状緩和を目的にタクティールマッサージを試みたので、報告する。

 

U、研究方法

  1. 研究期間: 平成20年2月4日〜2月19日,1112日〜1127

  2. 対象者:認知症患者2名。

    1)A氏: 女性、
    85歳。診断名は肺炎、胆石症。認知症。
     

      寝たきりで四肢の拘縮があり、ADL全介助。娘が遠方にいるため、面会者殆どなし。平成20年9月末、当院退院後ショートステイ利用していたが、夜間不眠、怒声、幻聴、興奮状態があり、食欲不振、発熱、血圧低下にて10月初めに再入院。12月に胃瘻造設するも肺炎を繰り返す。入院後も変わらず、大声を出す、昼夜逆転、ベッド上での帰宅要求があった。看護師を「姉さん」と呼 び「助けてくれ。」や「娘が迎えに来るから帰る」と言い、終始苦痛表情であった。


    2)B氏:男性、
    90歳。診断名は前立腺癌・骨転移。認知症。妻と2人暮らし。
                  

      家族の面会は2週間に1〜2回。経尿道的前立腺切除術を施行され、現在はホルモン療法中。眼鏡着用。意味不明な言動あり、理解力不良。リハビリ前は立位、座位保持困難であったが、1月中旬からリハビリ開始され、座位保持可能となる。 常に落ち着かず、ベッド上にいるときは布団をはいだり、脱衣行為が見られたため、つなぎ服を着用していた。

    帰宅要求が強く、訪室時には「帰る」や「タクシーを呼んでけれ」等の言動が聞かれ、ベッド柵をはずしたり、徘徊を繰り返し、立位もままならないことから転倒することもあった。そのため、ベッド柵を固定し、日中は車椅子に乗せ、安全ベルトを着用して散歩をしたり、ほぼ毎日ナースステーションで監視をしていた。夜間は眠剤を内服していたが、良眠は得られなかった。表情は固く、会話が困難なため、治療への協力も難しく点滴の自己抜去などの行動が見られた。

     

  3. 研究方法: 認知症患者にタクティールマッサージを施行する。
    1)施行者は講習会に参加し、実技指導を受け、それを元に、手技のパンフレットを作成し、配布して各自習

       得。(資料1)

    2)マッサージ前、清拭または手浴を行う。

    3)タクティールマッサージを施行。

    @概ね15時〜16時頃。

    A植物性オイルを使用(無香料)。

    B片手5分ずつ(両手10分)。

    4)資料1を用いて、マッサージ前・中・後の状態観察する。(資料2)  
     

  4. 分析方法
    タクティールマッサージを約1週間施行し、BPSDの有無を比較。スタッフのコメントから患者の変化を把握。それによりBPSDの緩和を判断する。
     

  5. 倫理的配慮
    BPSDのある患者およびその家族・キーパーソンに対して、本研究の内容を説明し、同意を得られた者を対象とした。また、同意が得られない場合でも、その患者・および家族には不利益にならないことを説明した。研究に使用した情報は、本研究のみに使用し、使用後も内容が分からないよう破棄、情報が流失しないよう配慮した。本研究は、院内の看護研究倫理委員会の承認を受けて行った。

V、結果
    対象者に、タクティールマッサージを、
6日間実施した。

  1. 表情
    1)A氏について:笑顔が見られることが多くなった。
    2)B氏について:表情が和らぎ、笑顔が見られるようになった。

     

  2. 拘束
    1)A氏について:拘束は行っていない。
    2)B氏について:脱衣行為は変わらずあった為、つなぎ服を着用していたが、ベッド柵の固定は
        なくなった。日中はリハビリが開始されたこともあり、車椅子でナースステーションに来るこ
        とも無く、安全ベルトも使用しなくなった。
     

  3. 睡眠状況
    1)A氏について:眠ることが増えた。良眠が得られない時でも、落ち着きが見られていた。
    2)B氏について:眠剤を内服しなくても入眠している。

     

  4. 特有のBPSD

    1)A氏について:時折、叫んだり、大声を出すことはあったが、夜間帯には見られなくなっ

        た。暴言・布団をはぐ行為は、除々に見られなくなった。

    2)B氏について:会話が可能となり、説明をすることで理解が得られ、点滴を抜く行為が無く

          なった。しかし、日中にベッドから降りる行為は、変わらず見られた。

     

  5. 患者からの感想
    1)A氏について:「気持ちいい」・「いい」がほとんどであったが、一度、「違う」という言

        葉が聞かれた。
    2)B氏について:マッサージ中は「いいな」・「たいした、いい」などの言葉が聞かれた。

      また、マッサージ後も「気持ちよかった」・「ありがとう」などの言葉が聞かれた。

W、考察

 タクティールマッサージの期待される効果に、不安感・孤独感の緩和が上げられる。そのエビデンスのひとつとして、タクティールマッサージを行うことで、脳下垂体からオキシトシンが分泌される、といわれている。田嶋は「オキシトシンは鎮静化の作用を持ち、血液中に広がることにより、安心感と信頼の感情をもたらす」3)と述べており、さらに高橋は「オキシトシンが体内に広がることによって、不安感のもととなるコルチゾールのレベルを低下させ、安心感をもたらす」4)と述べている。
 

 BPSDの症状としては、不眠・不安などが上げられる。患者は面会者が少なく、ほぼ一日をベッド上で過ごすため、刺激の少ない生活を送っており、その症状からも不安感や孤独感が強かったと考えられる。タクティールマッサージ後、大声を出すことが少なくなったり、良眠が得られたことは、タクティールマッサージにより症状が緩和されたのではないかと考える。川崎は「手のひらや指のマッサージをすると、短時間でも心地よい眠りに誘うことができる」5)と述べており、直接手をふれるマッサージで、夜間不眠が解消され、生活リズムの安定に繋がったと考える。
 

 B氏に対しては、身体拘束・薬剤投与などが行われており、それにより生活の質が阻害されていたことが考えられる。小阪は「基本的なケアが提供されている日常生活の中に、タクティールケアをうまく組み込むことによって、認知症患者の生活の質(QOL)が向上したり、その人らしい生活を送ったりすることが可能になってくる」6)と述べている。日常にタクティールマッサージを取り入れ、継続していくことは身体拘束や薬物投与の回数を減らし、円滑な治療の援助に繋がったと考える。日中、意図的に関われる手段としてタクティールマッサージを用いたことでコミュニケーションがとれ、施行者と患者の信頼関係構築に繋がったのではないかと考える。
 

タクティールの本質は、人と人とが触れ合うという非常に原始的な部分にある。手と手で触れ合い、心を通わせ、ぬくもりを伝えることの効果によりこの2例の患者はBPSDが緩和されたと我々は判断した。しかし、対象者が2名のみであったことを考えると、より多くの患者に施行し、その効果を確認することが今後の課題である。

 

X、結論

タクティールマッサージによりBPSDが緩和した。
 

引用文献 

 

1)認知症のへの理解を深める〜「すこやか健康講座」〜市保健センター、生活習慣病予防事業〜http://www.city.kitaakita.akita.jp/news/2008/01/0125/hoken_center/kenkou_kouza.htm

痴呆の介護の仕方、タクティールセラピーの紹介、第1回連載認知症高齢者との「タクティールマッサージとは」,認知症介護,Vol.7No.1

  http://fukushi-sweden.net/welfare/kaigonosikata/2007/taktil07.01..html

3)田嶋健晴:安心感をもたらしQOLを向上させる“タクティールケア”,Presented by Medical online,P
  52
COMMUNITY CARE
 2007-6
4)タクティールケア普及を考える会 著書:タクティールケア入門,
  第
2章 日本におけるタクティールケアの実際と効果,日系BP企画発行,P352008
5)川崎美織:ハンドセラピーのすすめ,リラクゼーション実践講座,認知症介護 Vol.8 No.4,P137

  2007
6)タクティールケア普及を考える会 編著:タクティールケア入門,
  第
2章 日本におけるタクティールケアの実際と効果,日系BP企画発行,P332008

 

参考文献

・浅井宏祐:高齢者医療実践ガイドMedical Practice vol,19 臨時増刊号,2002

・田嶋健晴:安心感をもたらしQOLを向上させる“タクティールケア”,COMMUNITY CARE 2007-6

・福島雅典 総監修:メルクマニュアル家庭版,14章 高齢の服薬上の注意,2005

・タクティールケア普及を考える会 編著:タクティールケア入門,日系BP企画発行,2008

・痴呆の介護の仕方(2007年), 「痴呆症介護ガイドブック」タクティールセラピーの紹介,

http://fukushi-sweden.net/welfare/kaigonosikata/2007/taktil07.06.html

 

第二資料は、「2010/資料1-2.2009.12」をクリックしてください。




一人でも多くの介護者が、手のマッサージや握り方の方法を学び、老人達のために活用される日が来る事を期待しております。


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     ( 2010年1月19日 記載 )

         
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