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痴呆の介護の仕方(2007年)

  「痴呆症介護ガイドブック」

タクティールセラピーの紹介          高齢者社会福祉専門家(アドバイザー) 澤野 正美
     
ここでは、タクティールセラピーの紹介を背中、手及び足の順番にいたします。
このサイトに紹介するマッサージの方法は、日綜研の「認知症介護2006年版」に4回に渡り紹介したものです。この度日綜研のご協力を得て、このサイトに同記事を紹介いたします。 画面構成のため、本書とは一部異なります

     

第1回

連載認知症高齢者との「タクティールマッサージとは」                                  認知症介護 Vol.7 No.1
 

はじめに
 

 タクティールマッサージは,従来日本で見られる指圧やツボなどを刺激するマッサージとは異なり,手を持って身体に優しく触れたり,撫でたりする,力をあまり必要としないマッサージです。

つまり,相手に刺激や痛みなどを与えることもなく,身体の肉体的な疲れや精神的疲労,ストレスなどをなくし,ゆったりとした気持ちを導き,心身共に和やかにさせることを目的としているものです。いすやベッドなどを利用し,場所も取らず,少し練習すれば誰にでも使えるマッサージです。

     

タクティールマッサージの効果
 

 高齢者介護の現場では,手をつないで散歩をしたり,食事や入浴,歯磨きを手伝ったり,物を一緒に持ち上げたり,悲しい時やうれしい時に互いに手を握り,触れ合い,心を分かち合ったりと,介護職員と高齢者が頻繁に触れ合っています。日常生活における何げない手の触れ合いでも,高齢者に安心感が得られ,良好な関係が生まれています。
 

手は,高齢者ケアのなかでは欠かせない大切な道具でもあり,多くの役割を担っています。さまざまな場面における高齢者とのコミュニケーションを思い出してみてください。

      
例えば,直接手に触れること(ここではタッチングと呼びます)で,認知症高齢者の信頼感を得ることができ,コミュニケーションが取りやすくなるなどの効果を実感したことはありませんか。介護者と高齢者(認知症高齢者を含む)との触れ合いにおける手の役割は大きく,抵抗なく受け入れられるのは「手」なのです。そんな触れ合いのなかで,大きな役割を果たしているのが,このタクティールマッサージです。
 

 タクティールマッサージは,「手による触れ合い」で相手に精神的な安心感や信頼感を与え,本人の孤独感やストレスといった苦痛を緩和する効果があります。高齢者の身体を優しく温かくマッサージすることで,血液循環の促進,ストレスの緩和,筋肉緊張の緩和が促進され,ストレスの排除,安心感の提供につながるのです。

タッチングによって手からの温かみを感じ,心が和み,気持ちがよくなり,相互に信頼感が生まれることで,コミュニケーションが生まれます。コミュニケーションが取れると,相手に自分の悩みや苦痛を打ち明ける準備ができ,それらを打ち明けることによって本人の精神的苦痛を解消する効果(リラックス効果)が生まれます。これがさまざまな苦痛を緩和するケアに結び付くのです。

 

実施する際の注意点

 しかし,ここで注意をしなくてはならないことがあります。手で相手の身体に触れるということは,相手の密接空間,つまり普段は身内にしか許していない相手の領域に入ることを意味します。この密接空間とは,相手の身体を中心とした場合,その周囲約60cmの範囲,すなわち普通に腕を伸ばせば相手の身体に触れることができる範囲を指します。

マッサージを実施するに当たり,マッサージをする側は「介護」という専門的な目的を果たすために,相手の密接空間に立ち入らなくてはなりません。
 

 普段の介護では,この密接空間に入ることを,相手は暗黙の了解のうちに許しています。特に,マッサージを受ける相手が認知症高齢者,知的障害者などの場合,思考判断には時間がかかります。今,これから起きようとしていることが何かをすぐに判断することは困難なため,相手に心の準備ができるよう時間を与えることも必要です。

相手の了解なくこの密接空間に入り,相手の身体に触れることは,不安や恐怖を抱かせることにもなりかねません。防御の構えとなって筋肉緊張を起こし,身体全体または一部を硬直させることになり,マッサージの効果は半減します。
 

 タクティールマッサージでは,暗黙の了解で高齢者の密接空間に入るのではなく,言葉と態度で相手に了解を得てから,マッサージをすることが大切です。密接空間に入る時には,まず相手に声をかけながら正面にかがみます。相手の目の位置より少し下から相手を見上げるようにして,肩からひじまでの間を触れると,抵抗なく受け止めてくれます。そこで相手からの拒否反応がなければ,あなたが密接空間に入ることが認められたことになります。
    

反対に,マッサージを受ける人は不安や孤独,苦痛などを抱えている場合が多いので,そのような精神的状態の時は,人が密接空間に入ることを認めやすくなる状態であるとも言えます。つまりタッ
 

チングへの拒否や抵抗感は少なくなる場合もあります。マッサージが終わった後は,そのことを告げると同時に,相手がタッチングを認めてくれたお礼の意味を込めて,「どうもありがとう」の言葉を忘れないことも大切です。これは「マッサージをしてやる」とか,「してもらった」などの意識を与えるのではなく,互いが一緒に協力しながら,タッチングをするからです。

 

タクティールマッサージの歴史
 

 安心感や安堵感を与えるポジティブな触れ合いが精神的によいことは,古くは1906年に,1936年のノーベル生理学・医学賞受賞者であるSir Henry Daleによって提唱されています。彼は,これらに影響しているものをoxytocin(オキシトシン)と名づけました。1950年代にはほかの研究者たちによって,それらが男性にとっても女性にとってもホルモンの影響によるものであると証明されています。
 

 タクティールマッサージは,1960年代にスウェーデン人のSiv Ardebyによって生み出されたマッサージ方法です。先述のように,これまで日本で使われてきた指圧やツボなどに見られる方法とは根本的に異なります。スウェーデン国内では,日本でスウェーデンのグループホームの開発者として知られているBarbro Beck-Friis医学博士からも推薦され,例えばリハビリテーションの教育プログラムとして活用するように提案されています。また,施設より派遣された介護職員が,教育プログラムの一環として取り入れています。
 

 このタクティールマッサージが注目されるきっかけとなったのは,1994年の社会庁(現社会保険庁)による「50歳以上の人達を対象とした介護福祉プロジェクト」で採用されたことでした。1996年には,その効果について発表されたことで,社会庁でも承認されました。そこで,ほかのマッサージと混同しないよう「タクティールマッサージ」と命名されました。1997年には,アメリカフロリダ州のタッチリサーチ研究所(TouchResurch Institut)で紹介され,世界的にも注目されています。
 

 1999年以降,さまざまな手法を取り入れて改良され,現在ではスウェーデン全土の高齢者施設や知的障害者施設,医療機関および会社職員の福利厚生でも応用されています。医療機関では,がん患者の苦痛緩和や緩和ケアでも活用されています。


対象者
 

 就寝前のマッサージによって安らかな快眠が得られ,高齢者だけでなく,妊婦,子ども,疲労感やストレスのある人にとってリラックス効果があります。また,リウマチ患者,糖尿病患者などにも効果があることが,カロリンスカ大学病院 ※ でも紹介されています。

 

下記の表に実際にタクティールマッサージが応用された病院,施設と,そこで実証された効果を紹介します。これら以外にも,各方面でさらなる効果について研究が進められています。


タクティールマッサージの効果が実証された病院。施設


施設名 実証された効果
教育大学

精神的不安と緊張の緩和,ストレスをなくすことによる暴力,暴言などの排除,職員と認知症高齢者とのコミュニケーション

がとれる

ヨーテボルグの3高齢者施設 在宅介護を受けている認知症高齢者と,その家族に対する効果
クングスヨールス・コミューンの高齢者施設 認知症高齢者が良好な睡眠をとるようになり,行動も落ち着く。それによって介護者の気持ちに余裕ができ,ストレスが低減されて忍耐強くなり,介護にも変化が見られるようになった。その結果,介護にやる気が出てくる
カロリンスカ大学病院 糖尿病患者の不安からくるストレスを緩和することにより,精神的安心感を与え血液の循環を促進し血流をよくする
エクスティールツンナのメーラル病院 乳がん患者の苦痛に対する軽減効果
ハルムスタード病院 リウマチ患者の苦痛・緩和ケアに対する効果
ヤーブレ内のFoU(研究と開発機構) ターミナルケアにおける患者本人の死に対する苦痛緩和や,QOL向上の効果施設名実証された効果

※カロリンスカ大学病院は,世界各国の医療研究者から認知症研究機関として注目され,多くの日本人研究者も派遣されています。

準備する物
 

 さて,タクティールマッサージに準備する物は非常にシンプルです。事務所や家庭にあるいすなどを利用し,バスタオルがあれば特別な道具はいりません。唯一,特別な物と言えば植物性オイルでしょうか。
 

 マッサージ自体は簡単な手技で行うことができるので,誰でも(利用者家族も含む),どこでも,簡単に行うことができます。マッサージには,いろいろな過程がありますが,一度にすべてしなくてはいけないものではありません。その時々の場所や時間の都合に合わせて,各種のタッチングを選択することもできます。
 

 本連載では今後,介護現場で活用できるタクティールマッサージの手技について,3回にわたり紹介します。日本国内にも,各種のマッサージの仕方があります。それらと混合しないようにするために,本誌では,今後「タクティールセラピー」と呼ぶことにします。
 

まとめ
 

 年をとっても,いつまでも健康で元気に長生きしたいという願いを誰もが持っています。医学技術や治療法なども日々進歩し,老化を防ぐ「アンチエイジング(抗加齢)」の研究が本格化しています。

 しかし,高齢化による各種の病気や障害が発生し,なかでも認知症高齢者が増加しています。また会社が効率化と利益向上を追求することで,ストレスによる社員の「燃え尽き症」などの障害も多くなっています。これらの解決方法として,このタクティールマッサージが一助となれば幸いです。


一人でも多くの介護者が、手のマッサージや握り方の方法を学び、老人達のために活用される日が来る事を期待しております。 このサイトを印刷して自由に利用してください。

 
(2007年1月5日 記載、日綜研のサイト)


                         

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